通町商店街を歩いていると、カラフルな丸亀うちわやおしゃれなお土産品が並んだ、何やら楽しそうなお店が。ここは、丸亀市を中心とした香川県の地域産品を取り揃えるセレクトショップ「OIKAZE SHOP」。夜になると、立ち飲み店「まるがめチャコリスタンド」に変身します。
こちらを運営している株式会社 OIKAZE は、地域産品の販路開拓・商品開発のほか、商店街周辺を巻き込んだ食のイベントなどを開催し、丸亀市を盛り上げようとしている拠点のひとつ。
その背景にはどんな想いがあるのか、代表の相原しのぶさんに訊きました。

株式会社 OIKAZE を立ち上げるきっかけが生まれたのは、相原さんが会社員をしていた頃に遡ります。
相原さん:もともと旅行関係の会社に勤めていて、中西讃エリアの営業を担当していました。観光事業に携わることもあったのですが、そのときに「地域活性」という言葉が流行り出したんです。今でいう「地方創生」ですね。国が莫大な予算をつけて、それをみんながこぞってとりにいく。
あるところではご当地グルメを作り、あるところではイベントができては無くなっていく。そういう一過性の地域活性を目の当たりにして「地域活性って、何なのだろう」とすごく疑問を持ちました。
結局その疑問に対する答えは見つからないまま、次のステップに進むために会社を退職。高松市の仏生山で働き始めました。
実は長年、宿泊施設を開業するという夢を持っていた相原さん。物件探しも兼ねて、仏生山にある温泉施設で働き始めます。そこで、ある答えに辿り着いたといいます。
相原さん:私が出会った仏生山の人たちは、みんな自分たちのまちのことが大好き。しかもそれを公言するんです。その雰囲気に魅せられて、県外から仏生山に遊びに来た人が、そのまま移住してくるケースを何度も見てきました。
その方が「良いところに移住したよ。遊びにおいでよ」ってお友達を呼んで、そのお友達もまた仏生山に移住してくる、なんてこともありました。地域のことを「好き」だという気持ちが、また別の「好き」を呼ぶという連鎖を目の当たりにして、「私にとっての〈地域活性〉って、これだ!」と気づいたんです。
長期的に見ると、地域を想う人の気持ちが、その地域の力になるんじゃないかって。それで私も、自分の地域のことを好きになってもらえる、誇りに思ってもらえるきっかけ作りがしたいと思い、2017年12月に株式会社 OIKAZE を立ち上げました。
相原さんは、徳島県の出身。地元の徳島県でもなく、ご縁ができた仏生山でもなく、丸亀市で会社を立ち上げたのは、どうしてだったのでしょうか。
相原さん:会社員時代に中西讃を駆けずり回るなかで「香川って、すごくいいな」と感じました。このコンパクトさと、住みやすさと、空気感が、とにかく自分に合っていて居心地がいい。早い段階から「一生ここで暮らすぞ」と決めていました。
そして、自分が新しいことを始めるにあたり、香川のどこでやりたいかと考えた時に真っ先に思い浮かんだのが、丸亀市だったんです。
会社員時代に、いろんな行政の方とお仕事をご一緒したんですけど、私が接した丸亀市職員の方は、こちらからの提案に対して「じゃあ一回、一緒にやってみましょうか」と、とてもフットワークが軽くて協力的だった。
しかも、こちらがお願いするより先に、次はどうしたらもっと良くなるかの振り返りをして、しっかりと次につなげてくれたんです。ここまでやってくれる行政なんて、なかなかないから本当に衝撃的でしたよ。
そうやって気持ちが見えたまちだったので、ここで新しいことを始めたいと思いました。
株式会社 OIKAZE のミッションは、地域に眠る魅力的なお宝(ヒト・モノ・コト)を掘り起こして、日本中に、世界中に伝えること。そして、そのお宝の存在を知ることをきっかけに、自分の地域を好きになったり、誇りに思ったりする人を増やすことです。
相原さん:当店に並ぶ商品は、ジャンルを問わず、作り手さんに焦点を当ててセレクトしています。作り手さんって、作ることには長けているけれど、売ることやブランディングに関しては苦手な方が多い。そこで我々がそれらを担うことで、作り手さんを後押ししたい、追い風を送りたいという想いを込めて「OIKAZE」という屋号にしました。
OIKAZE は、いろいろな事業に携わっています。卸をやったり、小売業をやったり、立ち飲み店をやったり、教育事業として高校生の授業に関わったり。「結局、何がやりたいの?」とよく聞かれるんですけれども、どの事業も軸は同じです。
自分の地域を好きになってもらえる、誇りに思ってもらえる、そんなきっかけ作りがしたい。そのための切り口を、たくさん展開しています。
その一つが、「姉妹都市」。丸亀市は、美食の街として世界中から注目を集める、スペインのサンセバスティアン市と 1991年に姉妹都市協定を結んでいます。
スペインの有名サッカークラブ「レアル・ソシエダ」の本拠地として、サンセバスティアン市のことを知っているという方もいるかもしれません。(丸亀市役所庁舎4Fには久保建英選手のユニフォームが飾られています)
姉妹都市との関係性もまた、地域の魅力の一つになると相原さんは考えました。
相原さん:県外の方から「かの有名な美食の街と丸亀市が、なぜ姉妹都市なの?」「なんでそれを活かさないの?もったいないよ!」とずっと言われていて。丸亀市とサンセバスティアン市が姉妹都市関係であることを皆さんに知ってもらうきっかけを作りたいと考えていた時に思い浮かんだのが「チャコリ」というキーワードでした。
チャコリとは、サンセバスティアン市のバスク地方で多く飲まれている地ワインのこと。チャコリを飲みながら、丸亀の食材をおつまみとして食べてもらい、サンセバスティアン市と丸亀市、両方のことを知ってもらう場所を作ろうと「まるがめチャコリスタンド」をオープンさせました。
チャコリスタンドは0次会、1次会仕様の立ち飲み店だから「次のお店、どこに行く?」みたいな会話が、自然と生まれます。チャコリスタンド周辺の飲食店さんも地域の魅力の一つなので、地域に根付いた店として、お客様にしっかりと周辺情報を提供したいという狙いもあります。
我々は、自分たちのことを「夜の健全な観光案内所」と呼んでいるんですけれども(笑)。
丸亀市では、サンセバスティアン市と姉妹都市提携調印をした4月9日を「チャコリの日」と制定し、公式イベント「まるがめピンチョス祭り」を毎年4月9日前後に開催。ひと口サイズのおつまみ「ピンチョス」を片手にチャコリで乾杯し、みんなで記念日を祝おうというイベントです。
株式会社 OIKAZE も、県外から有名なスペイン料理店を招致するなど、ピンチョス祭りを盛り上げるお手伝いをしています。
相原さん:地元の方はもちろん、美食目当てに県外からやってくるお客様が、年々増えている状況です。
大阪、名古屋、なかには北海道から来られている方もいるんですよ。イベントをきっかけに実際に丸亀に来ていただき、そして丸亀の良さを体感していただけるのは、とてもうれしいことですね。
実はこのピンチョス祭り、数年前までは、丸亀市で乾杯していることをサンセバスティアン市の人々は知らなかったそう。せっかくの姉妹都市交流事業なのだから、一方通行ではなく、相互交流にしたいと相原さんは意気込みます。
相原さん:私たちがお手伝いをはじめた 2021年に初めて、サンセバスティアン市と丸亀市をオンラインでつないで、いっしょに乾杯をしたんです。それは盛り上がりましたよ。
2025年には、スペインの有名なバルからシェフを招致して料理教室を開いたり、シェフに丸亀の食材を使ったピンチョスを開発してもらったりしました。
今後はもっと食の交流を増やしていこうということで、同年10月には、そのバルと連携協定も結んだんです。
そうやって少しずつ、相互交流に向けた一歩を踏み出しているところ。相互交流が生まれることによって「自分たちは、こんなに素晴らしいところと姉妹都市なんだ」と、丸亀市民は自分たちの地域を誇りに思えるはずだし、サンセバスティアン市の皆さんにも、丸亀市の魅力をより深く知ってもらえるきっかけになると思っています。
これからも私が思う「地域活性」を叶えるべく、丸亀市に対する愛情が養われるきっかけをどんどん作っていきたいです。