丸亀市と宇多津町をつなぐ県道33号線を走っていると見えてくる、洗練された佇まいの「ヴィンテージリバイバルプロダクションズ」。
こちらは香川発の革小物ブランドの工房兼ショップで、デザインとプロデュースを担当する兄の塩田裕基さんと、試作や製造を担う担当する弟の幸司さんが二人三脚で運営しています。
今回は代表の塩田裕基さんに、ものづくりの歩みを伺いました。

大学卒業後、関東で就職していた塩田さん。お父様の大けがをきっかけに香川県にUターンし、家業の造船業に加わりますが、業界は次第に衰退。仕事が減るなかで、新たな仕事を探し始めます。
塩田さん:当時、30代後半。ゼロから別のビジネスを立ち上げるのではなく、まずは自分の趣味の領域からスタートしてみようと思いました。それで、趣味で集めていたヴィンテージデニムを解体して、小物に作り替え始めたんです。
古いものを解体し、新たな価値を与えて世に送り出す。『ヴィンテージリバイバル』という店名も、ここからきています。
素材としてデニムと向き合う中、塩田さんは50年代のジーンズに使われていた「強化紙(パルプとポリエステルの混合素材)」の強度に衝撃を受け、ジーンズと組み合わせて製品化。雑誌で取り上げられるほど大きな反響を呼びましたが、同時に厳しい現実に直面します。
塩田さん:僕たちの製品が話題になると、すぐに大手メーカーが似たような製品を発売したんです。
しかも、ウチの5分の1とか7分の1の価格で。どれだけ工夫しても、素材の珍しさという付加価値だけでは、大手に到底太刀打ちできないことを思い知らされました。
この経験をきっかけに、素材のおもしろさに頼るのではなく、誰にも真似できない独自の「機能」と「デザイン」で勝負する道へと、ブランドは大きく舵を切ったのです。
その代表作のひとつが、iPhone ケース「iWear」。この製品には、塩田さんが理想とするものづくりの哲学が凝縮されています。
塩田さん:デバイスを包み込んだ方が、絶対に小さくなるし、美しいという考えからスタートしました。普通、革を縫製すると、どうしても縫い代の分だけ外側に飛び出したり、厚みが出たりします。それを解決するために、一枚の革をくり抜き、iPhoneの形状に沿って折り曲げて包み込む独自の手法を考案したんです。
さらにおもしろいのは、革という素材の性質を最大限に活かしている点。革は濡れると伸び、乾燥すると縮むという性質があります。使っていくうちにそれを繰り返すことで、まるで iPhoneにパウチしたかのようにぴったりと密着し、隙間がなくなります。だからこんなに薄いうえに、軽いんです。
一番人気の「キークリップ」が誕生したのは、塩田さん自身の悩みがきっかけでした。
塩田さん:僕は昔から、出かける直前になって「鍵がない!」と慌てて探すことが多かったんですね(笑)。そのストレスを無くすために、製品にマグネットを仕込むことを思いつきました。帰ってきたら冷蔵庫やデスクなど、予め決めておいた場所に鍵を「くっつける」。このシンプルな習慣さえあれば、鍵を探す手間が省けます。
当社のすべての製品は、僕自身の生活と地続き。自分が本当に困っていることや、心から欲しいと思ったもの。それを形にすることが、結果としてお客さんの喜びにもつながると信じています。

軽い・薄い・使いやすいの三拍子が揃った「Air Wallet」が誕生したきっかけも、同様。
「夏場に薄着になってもポケットが膨らまず、所作がスマートに見えるようにしたい」という塩田さんの理想を極限まで追求し、今の形になりました。
こうした緻密で立体的な造形美を支えているのは、前職である造船業での経験。弟さんも、当時から一緒に働いています。
塩田さん:僕は船舶設計士をしていて、小型船舶の設計をしたり、図面を作ったりしていました。船舶設計では、複雑な三次元の曲面を平面の展開図に落とし込むのですが、その感覚は革製品の型紙作りと全く同じなんです。二次元で数ミリ単位で緻密に計算したものが、立ち上がって美しい立体になる。
弟は当時、実際に船のパーツを作る「艤装(ぎそう)」を担当していたから、大きな船を造っていた2人が、今は役割分担そのままに革製品を作っている、作るもののスケールが変わっただけっていう感覚なんですよね。
弟さんとの共同作業について、塩田さんは深い信頼を口にします。
塩田さん:基本的には僕が「こんなものを作りたい」と起案して、デザインの方向性を決めます。それを具体的にどう形にするかは、弟との二人三脚。彼から「ここを改良した方が、もっと使いやすくなる」といった意見がたくさん出てくるから、それをお互いに納得がいくまですり合わせます。
また、サンプルが完成した後に、自分たちで実際に数ヶ月使い込んでみて「最初は良いと思ったけど、やっぱりここは直したほうがいいな」という点を見極める期間を必ず設けます。
世の中にまだない新しい形を追求し、なおかつ既存のものよりも圧倒的に使いやすく仕上げる。その両立は、とても難しいけれど、そこは職人として絶対に妥協できないところ。僕にとって最大の喜びは、商品がたくさん売れることよりも「納得のいく製品が完成した瞬間」にあるんです。作っていて「これはすごいぞ 。自信作だ!」と思えるものができた時の達成感は、何物にも代えがたい。
その手応えがあるから、今日まで長く続けてこられたのだろうと思いますね。
元々は三豊市詫間町に工房を構えていたヴィンテージリバイバルプロダクションズですが、製品に対する反響が大きくなり、製造量が増える中、人材が確保しやすい中讃エリアへの移転を検討するようになります。
なかでも、高校時代に部活のトレーニングで訪れたり、通町商店街やお城まつりに遊びに来たりと、塩田さん自身が強い愛着をもっていた丸亀市を移転先に選び、2014年に引っ越し。丸亀市に拠点を移したことで、まちとの新しい関わりも生まれました。
塩田さん:お店の前の道が「丸亀国際ハーフマラソン」のコースになっていて「ここは何のお店ですか?」と興味を持って来てくれる方が増えました。ここは工房がメインなので、接客も職人が交代で行います。
僕たちにとっては、お客さんのニーズを直接聞ける貴重な場所ですし、お客さんにとっては、実際に作り手と話ができる、なかなかおもしろい場所になっているのではないかと思います。商品を実際に手に取ってもらい、僕たちのこだわりを知ってもらえるのは、本当にうれしい。ぜひ、散歩ついでに気軽に寄ってほしいです。

また、丸亀市で企画から製造まで一貫して行っていることを受けて、ヴィンテージリバイバルプロダクションズの製品は丸亀市で製造された将来性のある製品に贈られる「丸亀セレクション」に選出されたり、ふるさと納税の返礼品に選ばれたりもしています。丸亀市から全国に、そして世界に向けて、その名を轟かせようとしています。
インタビューの最後、塩田さんが考える革製品の魅力について質問してみると、こんな答えが返ってきました。
塩田さん:革製品の最大の魅力は、使い込むことで表情が変わっていくことです。ただ古くなるのではなく、それが「味」になり、世界に一つだけの「個性」になっていく。そんな素材は、革とデニムくらいしかありません。使う人の手の脂や、触れる頻度、過ごした時間によって、ツヤの出方や色の変わり方が全く異なります。買った時がピークではなく、使い込んでいく中で自分の一部になっていくような幸福感や満足感を、ぜひ多くの人に感じてほしいです。
また革は、種類によって性質が千差万別ですから、まずは一度、お店に来て実物を手に取ってみてほしいですね。僕たち職人と直接話をしながら、自分にぴったりのアイテムを見つけてもらえたら、それ以上の喜びはありません。
船の設計を、手のひらサイズの革小物に。元船舶設計士という異色の経歴がもたらしたのは、単なる理屈ではなく「1ミリの妥協も許さない」という職人としての矜持でした。その緻密な計算と、使う人の日常を想うやさしさが溶け合った製品は、あなたの暮らしを今よりも豊かなものに変えてくれるはずです。丸亀市を訪れる際は、ぜひそのこだわりの奥深さに触れてみてください。